広い庭の片隅、来儀の部屋からほど近い場所に、人の頭ほどの大きさの石が、少し盛られた土の上に置かれている。 今朝から雪が降っていたせいか、わずかに白く積もっていた。 来儀はそっと、その石の前に色とりどりの花の束を置く。 そこに眠るのは、この地で息を引き取った、どこまでもひたむきで、とても愚かな人間の子供だった。そして、誰よりも来儀に優しい人だったのだろうと、今は思う。最期の最後まで、来儀のことを考えていたことを知っている。 「……私は、君の気持ちに応えることはできないけれど」 これからもずっとと語った子供の顔を思い浮かべながら、来儀は瞼を閉じる。親友によく似た、けれど全く違う笑顔ばかりが浮かんでは消えていく。あの子供の本心などは知らないけれど、きっと来儀といて楽しいと思ってくれていたのだろうと、なんとなく感じた。 だからこそ、来儀はこの言葉を返すべきなのだ。 「君に会えて、良かったと思っているよ」 尊い男の子孫で、誰の代わりでもなくなった子供に。 俺も、そう、男の笑い声が聞こえた気がした。 2025/08/02
お題はX企画『文披31題』よりお借りしました。