まるで鏡を見ているよう。
女は、本に囲まれた図書室で、向かい合って座る少年を見ていた。
この鈴香高等学校にある『願いを叶える噂』というものを調べに来た二人が、いま女の目の前にいる。噂を流したのが女だということも、女が作った異空間だということも気づかず、この場から脱出する方法を考えていた。
ここは、この空間を維持するための食事処だ。目の前の二人は、女の糧となる餌。否、少年は食べることは出来ない。
少年もまた、女と同じく、人間の皮を被ったバケモノであるからだ。魂の形が、隣に座っている男とは異なっている。少年は、自身と同じ形をしていた。
そのせいもあって、強い親近感を覚えてしまう。それだけじゃない。少年の願いは、女と同じなのだ。鏡に映る、もう一人の自分のように。
ただ大事な人と同じ時間を刻みたい。ずっと隣で生きていたい。
それだけの、純粋な願い。何かを犠牲にしても、誰かを蹴落としたとしても叶えたい想いを、同じ強さで持っている。
「(哀れですね、私たち)」
本当は同じになれないことを悟りながら、必死で目を背けて足掻いている。
——可哀想で、悲しい私たち。
だからだろうか、女はつい、口にしていた。
「ずっと、ここに居たらいいじゃないですか」
口にして、女は動揺した。
頷きたい少年を、女を否定するのは、いつだって同じになれない愛しい人なのに。
「悪いけど、俺は永遠ってやつに興味がないわけ」
ああ、ほら。言葉を飲み込んで、意思に追従する。
女は椅子から立ち上がり、少年を見つめた。
「——可哀想」
2025/07/03
お題はX企画『文披31題』よりお借りしました。